※この記事は薬剤師が執筆し、編集部によって画像編集を行いました。
妊娠中に葛根湯を飲んでも大丈夫?

画像:医療用医薬品のツムラ葛根湯とグラスの水(撮影:salvia writer)
結論からお伝えすると、妊娠中の葛根湯は一律に『大丈夫』とは言えません。
漢方薬は「体にやさしい」「副作用がない」というイメージを持たれがちですが、漢方薬も医薬品です。体質や体調によっては副作用が起こることもあります。
実際に、市販されている葛根湯の説明書(添付文書)には、服用前に相談が必要な人として、「妊婦または妊娠していると思われる人」が記載されています(※1)。つまり、妊娠中の方は自分の判断だけで飲む薬ではないということです。
なお、妊娠中の薬の服用については、基本的なこともあわせて考える必要があります。
妊娠週数
体調や持病の有無(血圧が高め、むくみがあるなど)
症状(熱があるか、どのくらい続いているか)
飲もうとしている製品(成分や量)
条件は人によって異なるため、「漢方だから安心」と決めつけないことが大切です。
医師や薬剤師に相談したうえで薬を服用しましょう。
医師から処方された葛根湯なら妊娠中でも飲める?
医療機関で処方された葛根湯は、医師が「今のあなたに必要」と判断して出した薬です。ただし、妊娠していることを医師が知らなければ、その限りではありません。
ここでは、よくある3つの場面に分けて説明します。
<かかりつけの産科の医師に処方された場合>
妊娠の経過を把握している産科の医師が処方した葛根湯は、妊娠週数や体調などを考慮して判断されたと考えらえます。決められた量や回数、服用方法を守って飲みましょう。
なお、病院で処方される医療用の葛根湯は、説明書(添付文書)に、妊娠中の方について「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されています(※2)。
これは、『妊娠中に使用する際は治療によるメリットとリスクを考慮して判断する必要がある』という意味です。
妊娠中であることを医師に伝えたうえで処方された場合は、医師の指示に従って服用しましょう。服用後に気になる症状が現れた場合や服用について不安がある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
<内科医から処方された場合(妊娠中と告げてある場合)>
かかりつけの産科以外の内科でも、「妊娠中です」と伝えたうえで処方された場合、医師はその情報をふまえて薬を選んでいます。処方どおりに飲んでかまいません。
念のため、次の2つも行っておくと安心です。
薬局でも薬剤師に妊娠中であることを伝える
お薬手帳に薬の名前や服用状況を記録しておく
次の妊婦健診で、産科の医師に「内科で葛根湯をもらって飲んだ」と伝える
<自宅にあった葛根湯(手元に残っていた葛根湯)>
以前、病院から処方された葛根湯や、家にある市販の葛根湯が残っていても、妊娠中は自己判断で服用しないようにしましょう。
以前に処方されたときと現在とでは、体の状態も症状も違います。また、妊娠中であることを前提に処方された薬でなければ、改めて『妊娠中の使用について確認する必要があります。また使用期限が過ぎている可能性もあります。
残っている薬を服用したいときは、商品名や処方時期、お薬手帳などを持参して、医師か薬剤師に相談しましょう。
妊娠中に葛根湯を飲んでしまった場合

「もう葛根湯を飲んでしまった……」と不安になっている方もいるかもしれません。
ここでは、すでに葛根湯を飲んだ方に向けて、確認しておきたいことやその後の対応について説明します。
妊娠に気づく前に葛根湯を飲んでいた場合
妊娠に気づく前に、風邪や肩こりなどの症状で葛根湯を飲んでいたという方もいるでしょう。
妊娠週数は、最後の生理が始まった日を「妊娠0週0日」として数えます。そのため、妊娠に気づくころには、すでに妊娠4〜5週になっていることが多いものです。
日本産婦人科医会「妊婦の薬物服用」(※3)では、一般に、妊娠4週未満(妊娠3週末まで)は、薬の影響が赤ちゃんの体の形に異常(奇形)として残ることは少ないと記載されています。
考え方としては、妊娠4週未満は胎児の器官形成が始まる前の時期であり、薬の影響を受けた場合は着床しない、流産する、または修復されるとのこと。ただし、薬の種類によって例外もあります。葛根湯だけでなく、服用した薬が心配な場合は、自己判断せず医師や専門の相談窓口に確認しましょう。
妊娠初期・後期・臨月で違う?
妊娠中の薬による影響は、どの時期に飲んだかによって考え方が変わります。
ここでは、日本産科婦人科学会の区分(※4)をもとに4つの時期に分けて説明します。
<妊娠初期>
赤ちゃんの心臓や手足など、体の大切な部分が作られる時期です。特に妊娠4週から7週ごろは、薬の影響を受けやすい時期とされています(※4)。
ただし、この時期に葛根湯を飲んでしまった場合でも、服用したことだけで赤ちゃんへの影響が決まると断言されているわけではありません。しかし「飲んでも問題なかった」と自分で判断するのではなく、何を、いつ、どのくらい飲んだのかを確認し、医師に伝えましょう。
今後の服用についても、医師や薬剤師に相談してから判断してださい。
<妊娠中期>
体の形が作られる時期を過ぎ、赤ちゃんが大きく育っていく時期です。この時期も、薬を使うときは医師や薬剤師に相談するという考え方は変わりません。
<妊娠後期>
葛根湯には、「麻黄(まおう)」や「甘草(かんぞう)」という生薬が含まれています。麻黄を含む製剤は心臓をドキドキさせたり血圧を上げたりする働きがあり、甘草を含む製剤では、服用量や服用期間などによって、むくみや血圧の上昇などにつながることがあります。(※2)服用した場合は、速やかに医師に伝えましょう。
<臨月>
臨月は出産が近い時期です。この時期に発熱や体調不良がある場合も、自己判断による薬の服用は容認されていません。熱の原因によっては、出産の準備に関わる対応が必要になることもあるため、まずかかりつけの産科に連絡しましょう。
また、すでに葛根湯を飲んでしまった場合も、飲んだ量と時間をメモして、産科に伝えましょう。ドキドキする、頭が痛い、むくみが急に強くなったなど、いつもと違う症状があるときは、すぐに連絡してください。
葛根湯を飲んだら胎児に影響する?
葛根湯を飲んだ場合に胎児へ影響があるかどうかは、服用した時期や量、回数、製品などによって異なります。そのため、現時点では、葛根湯を飲んだからといって「必ず影響する」とも「まったく影響がない」とも言い切れません。
そのため、葛根湯を飲んだ自分のことを必要以上に責めたり、不安になりすぎたりするのは避けましょう。
大切なのは、飲んだ商品の名前、1回に飲んだ量、飲んだ回数の3つを確認して医師に伝えることです。
妊娠中の薬について詳しく相談したいときは、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」に相談する方法もあります(※5)。
葛根湯を飲んだあと、医師に相談するときに伝えること
医師や薬剤師に相談するときは、服用した状況を具体的に伝えると、判断に役立ちます。スムーズに伝達するために、事前にメモしておくとよいでしょう。
現在の妊娠週数
飲んだ商品名(箱や袋の写真を撮っておくと確実です)
市販薬か、医療機関で処方された薬か
1回に飲んだ量
飲んだ回数
服用のタイミング(日付と時間)
飲んだ理由(風邪、肩こりなど)
熱がある場合は、その体温
ほかに飲んでいる薬やサプリメント
葛根湯の服用後に出た症状(動悸やむくみなど)
お薬手帳を持っている方は、あわせて見せましょう。
葛根湯は処方薬と市販薬で違う?

画像:医療用医薬品の葛根湯(左)と市販薬の葛根湯(右)(撮影:salvia writer)
葛根湯は、ドラッグストアなどで購入できる市販薬と、医療機関で処方される医療用医薬品があります。ここでは、それぞれの葛根湯の違いを説明します。
市販の葛根湯と医療機関で処方される葛根湯との違い
市販薬も医療用医薬品も、葛根湯という基本の処方は共通しています。ただし、製品によって生薬の配合量やエキス量、用法・用量など飲み方などが異なる場合があります。
また、市販薬と医療用医薬品の大きな違いは、「飲むかどうかを誰が判断するか」です。
・市販の葛根湯は、自分で選んで買える薬(一般用医薬品)
多くは「第2類医薬品」に分類されており、製品によって、1日分に含まれる生薬の量が違い、病院の薬と同じくらいの量が入っている「満量処方」のものもあれば、それより少ない量のものもあります。
また、他の風邪薬の中には葛根湯の成分が入っているものもあるため、知らないうちに成分が重複する可能性もあります。
・病院で処方される葛根湯(医療用医薬品)
医師が診察をして、症状や体調、妊娠中であることなどをふまえて、量や飲む期間を決めます。
妊娠中に葛根湯を使いたい場合は、自己判断で市販薬は選ばず、医師の診察を受けて処方してもらうことが基本です。
同じメーカーでも市販薬と医療用医薬品がある
葛根湯は「メーカー名」だけでは市販薬である一般用医薬品(第2類医薬品)か医療用医薬品かを判断することはできません。
たとえば、クラシエには、ドラッグストアでよく見かける「葛根湯エキス顆粒Sクラシエ」や「葛根湯エキス錠クラシエ」があります。一方、医療用医薬品として「クラシエ葛根湯エキス細粒」や「クラシエ葛根湯エキス錠T」もあります。
またツムラにも、市販薬の「ツムラ漢方葛根湯エキス顆粒A」と、医療用医薬品である「ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用)」があります。
このように、同じメーカーでも、同じ「葛根湯」でも、市販薬と医療用医薬品で商品が異なり、成分量や用法、用量など違うこともあります。
日本の医療用の漢方薬においては、ツムラの方が圧倒的に多く処方されていることから、「クラシエの葛根湯は市販薬」「病院でもらう薬はツムラの葛根湯」と思っている方もいるかもしれませんが、実はどちらのメーカーも、市販薬と病院で処方される薬の両方があることを覚えておきましょう。
手元にある葛根湯が市販品か処方薬なのかを調べたい
家に残っていた葛根湯が、ドラッグストアで買ったものか、病院で処方されたものなのかが
分からないときは、次の点を確認しましょう。
商品名:箱や袋に記載された正式な名前
医薬品の区分:市販薬には箱に「第2類医薬品」などの表示があります
薬袋や説明書:薬局で受け取ったときの薬袋や説明の紙があれば処方薬
剤形(顆粒、細粒、錠剤など)
服用の判断を医師や薬剤師に相談するときは、箱ごと見せるか写真を撮って見せると、正確に伝わります。
葛根湯に含まれる生薬について

葛根湯は、いくつかの生薬(薬として使う植物などの一部)を組み合わせて作られています。ここでは、葛根湯に含まれる生薬の種類と妊娠中に知っておきたい成分について説明します。
葛根湯に含まれる7種類の生薬
葛根湯には、次の7種類の生薬が含まれています(※1、※2)。
葛根(かっこん):クズの根
麻黄(まおう):マオウ科の植物の茎
大棗(たいそう):ナツメの実
桂皮(けいひ):クスノキ科などの樹皮(シナモンの仲間の樹皮)
芍薬(しゃくやく):シャクヤクの根
甘草(かんぞう):カンゾウという植物の根や地下茎
生姜(しょうきょう):ショウガの根茎
葛根湯は、比較的体力のある方の風邪のひき始めで汗をかいていないときや、肩こり、頭痛などに用いられる漢方薬です(※1)。
ただし、風邪のどの段階でも合うというわけではありません。
麻黄や甘草などが含まれている
葛根湯に含まれる生薬のうち、特に知っておきたいのが「麻黄(まおう)」と「甘草(かんぞう)」です。
麻黄に含まれる「エフェドリン」という成分によって、心臓がドキドキしたり、血圧が上がったりすることがあります。
また、甘草は、量が多くなると、むくみや血圧の上昇、手足のだるさなどを起こすことがあります(偽アルドステロン症)(※2)。
甘草は多くの漢方薬や一部の風邪薬にも入っているため、ほかの薬と一緒に飲むと、量が重なる点にも注意が必要です。
ただし、「麻黄や甘草が入っているから、妊娠中は危険」というわけではありません。実際に、妊娠中の方に医師が葛根湯を処方することもあります。
大切なのは、「妊娠中かどうか」だけで判断するのではなく、成分、飲む量と期間、血圧などの体調、ほかに飲んでいる薬などを総合的に見て判断することです。その判断を自分だけでするのは難しいため、医師や薬剤師に相談しましょう。
葛根湯について妊婦さんからよくある質問

ここでは、妊娠中の葛根湯について、よくある質問に回答します。
Q. 妊娠の可能性があるときに葛根湯を飲んでも大丈夫?
A. 妊娠の可能性がある場合も、妊娠中と同じように考えて、自己判断で飲まないようにしましょう。市販の葛根湯の説明書でも、「妊娠していると思われる人」は服用前に相談するよう書かれています(※1)。薬局で「妊娠しているかもしれない」と伝えて相談してください。
Q. 妊娠初期に葛根湯を飲んでしまったらどうすればいい?
A. 葛根湯を飲んでしまった場合は、商品名、飲んだ量、回数、時期を確認しましょう。心配な場合や、これからも服用したい場合は、妊婦健診まで待たずに産科の医師や薬剤師に相談してください。
Q. 妊娠後期に葛根湯を飲んでも大丈夫?
A. 妊娠後期は血圧が上がったり、むくみが出たりしやすい時期です。葛根湯に含まれる麻黄や甘草は、血圧やむくみに関わることがあるため、自己判断では飲まず、産科の医師に相談しましょう。
Q. 臨月に葛根湯を飲んでしまったら?
A. 飲んだ量と時間をメモして、産科に伝えてください。臨月に熱や体調不良があるときは、薬を飲むかどうかの前に、まず産科に連絡することが大切です。ドキドキする、頭が痛い、むくみが急に強くなったなどの症状があれば、すぐに連絡しましょう。
Q. 市販の葛根湯は妊娠中に飲めますか?
A. 市販の葛根湯の説明書には、妊娠中の人は服用前に相談するよう書かれています(※1)。買う前に薬剤師に妊娠中であることを伝えて相談するか、産科の医師に確認してください。
Q. クラシエの葛根湯は妊娠中でも飲めますか?
A. クラシエの葛根湯にも、市販薬と医療用医薬品があります。どちらであっても、妊娠中は医師や薬剤師に相談してから飲みましょう。病院で処方されたものであれば、医師の指示どおりに飲んでください。
Q. 医師から処方された葛根湯なら飲んでも大丈夫?
A. 医師が妊娠中であることを知ったうえで処方した葛根湯であれば、指示どおりに飲んでかまいません。妊娠を伝えていなかった場合は、飲む前に処方した医師か薬局に連絡して、妊娠中であることを伝えましょう。
Q. 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は葛根湯と同じですか?
A. 名前は似ていますが、葛根湯に「川芎(せんきゅう)」と「辛夷(しんい)」という生薬を加えた、別の漢方薬です。主に鼻づまりなどに使われます。麻黄や甘草も含まれているため、妊娠中は葛根湯と同じように、医師や薬剤師に相談してから使いましょう。
Q. 妊娠中に風邪をひいたら、薬以外に何をすればいい?
A. 体を休めて、水分をこまめにとりましょう。高い熱がある、食事や水分がとれない、症状が長引くといったときは、薬を探す前に医療機関を受診してください。どこに相談すればよいか迷ったときは、かかりつけの産科に電話で相談するとよいでしょう。
妊娠中は、「葛根湯は漢方だから安心」と自己判断しないことが大切です。
一方で、葛根湯を飲んでしまったからといって、必要以上に不安になることはありません。何を、どのくらい、いつ飲んだのかを確認し、妊娠週数とあわせて医師や薬剤師に相談しましょう。
◇参考
※1. PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)|ツムラ漢方葛根湯エキス顆粒A
※2. PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)|ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用)
※3. 「妊婦の薬物服用/日本産婦人会先天異常委員会委員 神奈川県立こども医療センター周産期医療部産婦人科部長(山中美智子)」
※4. 日本産科婦人科学会『産科婦人科用語集・用語解説集』
※5. 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター|妊娠と薬について知りたい方へ
◇記事の構成・編集/(salvia編集部)
◇元原稿・情報提供/渡辺ユリ/薬剤師(クリニック門前薬局・面薬局勤務、OTC販売)