※この記事には、有資格者(元救急医、現在産業医医師)に質問した回答が用いられています。
<30秒でこの記事がわかる>
・風邪のときの痰は出した方が早く治る→出した方が賢明
・痰を飲み込んでも大丈夫?→基本的には大丈夫
・風邪が治りかけのときは痰がからむ?→そうとは言い切れない
・風邪の治りかけは咳もひどくなる?→そうとは言い切れない
・痰の色に意味はある?→おおよその理屈はある
風邪のときの痰は出した方が早く治る

痰は不要なものを排出する防御本能
痰とは、口や鼻と肺をつなぐ気道からの分泌物で、細菌やウイルスなどの異物を気管支から排出する役割をもっています。よって、痰が出るということは体が正常に機能しているとも考えられます。
咳や鼻水も防御本能
風邪の症状である咳や鼻水も、痰と同じ防御本能によるものです。咳や鼻水も、体の外に感染物質を排出する役割を果たします。また咳は気管から痰を外に出す働きもします。
このように痰の働きや役割を考えても、風邪のときの痰は排出した方がよいでしょう。
なお、痰をためてしまうと気道が狭くなりますし、呼吸もしにくくなります。また体内は細菌が繁殖しやすい環境なので、痰をためたままにするのもよくないことを覚えておきましょう。
痰を飲み込むリスクとは

痰をうまく排出できずに、誤って飲み込んでしまうという人もいます。
先述したように、痰は体に不要なものを排せつするための分泌液です。よって、痰には異物をはじめ、ウイルスと戦った白血球や死骸や細菌などが含まれていると考えられます。
保護者の中には「子どもが痰を飲んでしまったので心配」という声も多いので、医師に回答してもらいました。
痰を飲み込んでしまった場合のリスク
子どもは痰を上手に出せずに、飲み込んでしまうことが多いものです。また学校の授業中に痰が口に出てきてしまい、吐き出すタイミングがなくて飲み込んで処理をする子もいるようです。
【医師より】基本的に痰は飲み込んでしまっても、健康被害になることはほぼなく、大きな心配は不要です。
肺炎や気管支炎を発症している場合、痰のなかには病気の原因である細菌やウイルスなどの病原体を含んでいることがあります。しかし飲み込まれた痰は口から胃のほうに入り、強い酸性成分である胃酸によって殺菌され、ほとんどの細菌やウイルスは死滅すると考えられます。
痰が出せないとどうなるの?
痰を出したいのに、口の方まで出てこないことはありませんか?通常は咳をすることで痰が出てくるはずなのですが、高齢者や子どもなど喉の力が弱い場合、スムーズに痰を排せつできないことがあります。
【医師より】特に高齢の方で、痰が胃のほうではなく、気管や肺のほうに流れ込んでしまうと、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん※1)などを引き起こして、重篤な状態になる可能性があります。
※1)口の中の食べ物や唾液などと一緒に細菌が誤って気管や肺に入り(誤嚥)、それをきっかけに生じる肺の感染症。
痰を飲み込んだとしても、基本的に心配は要らないとのこと。しかしリスクはゼロではないようですね。
ドロッとした痰を飲み込むのは特に気持ち悪いですし、痰がからむときは小まめに吐き出すことを心がけましょう。
痰がからむのは治りかけのサイン?

細菌やウイルスを排せつする痰なので、「痰が出はじめたら風邪が治りかけている」と考える人もいるようです。しかし、それは安易な発想かもしれません。
風邪が治る過程で症状の順番はある?
そもそも風邪とは病名ではなく、正式には「風邪症候群」と呼ばれます。咳や鼻水、喉痛などの症状が比較的軽く出る状態のことです。
傾向としては倦怠感や発熱、のど痛などの後に鼻水や鼻づまり、咳や痰に続くことも多いようですが、それらの症状が出る順番に特に決まりはありません。
【医師より】風邪の症状のうち一つが強く認められる場合は、診断名が風邪症候群から変化することがあります。主な名称は急性気管支炎、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎です。
一般的に「咳からはじまる風邪」や「喉痛からはじまる風邪」などのイメージもあるようですが、特にウイルスや細菌の種類によって症状が異なるわけでありません。風邪の中にいろいろな症状の出現様式があるということです。
痰が絡んでも治りかけとは言えない
痰が絡むのは、細菌やウイルスに感染していることが原因です。治りかけのサインではない場合も多いにあります。
【医師より】痰が絡むと、気道に存在する繊毛の運動機能が低下して、痰を排出できずに気道に痰が貯留するため、さらに絡みがひどくなって、悪循環に陥る場合も想定されます。
治りかけは咳もひどくなる?
熱が下がった後に咳が出始めるケースもあるので、「咳が出たら風邪の終盤」と思う人もいるようです。しかし痰と同じで「咳がひどくなる=治りかけ」というわけではありません。
【医師より】「咳嗽症状(がいそうしょうじょう=咳)(※2)」は、比較的長く続きやすい風邪症状です。理由は発症した風邪の諸症状によって気道の粘膜が弱くなると、バリア機能が正常運転しなかったり過敏になったりするからです。
またウイルスや細菌感染に伴って肺炎を合併することもあるため、その場合はもちろん治りかけとは言えないでしょう。
※2)「咳嗽症状(がいそうしょうじょう=咳)」は、ウイルスや細菌、異物などを体の外に出そうとする生体の防御本能のことです。
このように風邪が治癒する時期になっても、痰や咳、鼻水や喉の違和感などの症状が継続していることがあります。
よって『痰や咳が風邪の治りかけのサイン』と言い切ることは避けておきます。
緑色や黄色の痰は治りかけの証拠?

ひとことに「痰」といっても、色や質感はさまざまです。緑がかった色もあれば黄色の痰もあり、ベタベタでドロッとした痰がある一方、サラサラした痰もあります。
これらの痰の色は、何によって変化しているのでしょうか?その考えられる症状や体の状況を、痰の色別に解説してもらいました。
透明の痰について
基本的に健康な状態の痰は無色透明で粘りけはないとされています。ホコリや煙などが原因でも分泌されるので、健康な状態でも痰は出るいうわけですね。
【医師より】一般的に健常者の痰は無色透明です。しかし透明な痰は、気管支炎の初期や気管支喘息を発症した際にも見られます。
特に気道の過敏性が増悪(※2)する喘息を罹患している場合は、透明な痰の分泌量が増加することもありますので、病院を受診する際は、痰に関する情報も担当医へ伝えるとよいでしょう。
※2)「増悪(ぞうあく)」とは、症状や病態などが悪化する医療用語。
白色の痰
透明ではなく、白くて粘り気の強い痰が認められることがありますよね?乳白色にも見えるこの痰は、気管支炎など、気管の病気が懸念されます。
【医師より】気管支炎など、気管の病気を罹患している場合、気道に存在している粘液を分泌する細胞が増加することで、白くなります。
また、白色の痰が出る原因のひとつとして、慢性閉塞性肺疾患などの慢性的な呼吸器の病気を発症している場合もあります。受動喫煙や大気中に存在する有害物質を長期にわたって、吸い込み続けることによって、気管支や肺胞に炎症が引き起こされることがあります。
黄色の痰
黄色の痰は、ウイルスや細菌の感染が疑われます。例えばインフルエンザウイルスやライノウイルス、パラインフルエンザウイルスなどによる風邪や気管支炎などです。また粘り気がありドロドロしている場合は、膿性痰(のうせいたん)と呼ばれる状態です。なお黄色の痰が茶褐色に見えることもあります。
【医師より】痰の色が黄味を帯びるのは、白血球中の好中球(※3)に含まれる酵素の色によるものであり、濃い緑黄色の痰は、細菌感染しているときに見られます。
※3)好中球(こうちゅうきゅう)とは、体内に侵入した細菌や真菌感染に抵抗し、体を守ってくれる働きをするもの。
緑色の痰
サラサラした性状の痰が緑色に変わることがあります。まるで鼻水のようにドロッとした緑色の痰は、膿性痰(のうせいたん)と呼ばれるものです。
【医師より】膿性痰は細菌と白血球と粘液が混成したものです。緑色の痰が出る病気としては、急性気管支炎や肺炎などの感染症が挙げられ、通常であれば、ウイルスよりも細菌感染の場合に、膿性痰が認められやすいと考えられています。
鼻水のようにドロッとした痰
黄色や緑色の痰で説明したドロドロした痰について、補足をしてもらいました。
【医師より】風邪や気管支炎を発症した際によくみられる、ドロドロした黄色い痰の塊の正体は、体の中で細菌やウイルスなどの病原体と戦った白血球です。一塊となった、黄色い痰は細菌やウイルスが体内に侵入し、それを倒すために働いて死滅した白血球や免疫細胞の死骸と考えられます。
心配な痰
茶褐色や黄色などの色が付着している痰の中には、一般的なウイルス感染症以外の症状が隠れている場合もあるようです。
【医師より】茶褐色や黄色などの痰は、気管支喘息や肺の悪性腫瘍など呼吸器疾患でも分泌される可能性があります。特に痰の量が増加したり痰の色が濃く変化したりする際には、早急に呼吸器内科など専門医療機関を受診しましょう。
鼻水の色も確認
【医師より】透明の色調である鼻水(鼻汁)は、風邪の初期症状の場合にもよく認められるサインです。風邪を発症した際には、初期段階では、サラサラとした水っぽい鼻水を認め、その後、粘り気が多い性状に変わっていくことがあります。
痰の色を見て、体内で起きていることを想像することはできても、他の病気が潜んでいることもあるので、素人が断言するのは難しそうです。
それよりも、体調が健常な時の痰の色などを普段から覚えておくことが大切。いつもより痰の色が濃くなったり異なる色調に変化したり、痰の量が増えたときなどに、医療機関を受診するきっかけになりますよ。
「喉に痰がずっとある感じ」を改善する方法

痰は極力出した方がよいことがわかったところで、ここからは痰を出す方法を医師にアドバイスしてもらいました。
痰を出しやすい体勢
横向きに寝ると、咳症状やのどの違和感を解消できる可能性が高まります。
うつぶせ寝や仰向けの状態で就寝するよりも横向きの方が、気道をより確保できやすいためです。夜間の咳症状も軽減することが期待できます。
呼吸法(ハッフィング)
喉の奥のほうにへばりついた痰をうまく出す方法のひとつに、「ハッフィング」という呼吸法があります。
1.通常の呼吸を複数回行う。
2.深呼吸を数回行う。
3.声を出さずに『ハッハッ』と強く早く息を吐く。
4.痰があがってきたら強く咳き込んで、痰を外に出す。
ただし過剰に行うと、のどの粘膜を傷つける恐れがありますので、注意しましょう。
飲み物
湯気や水蒸気の出る温かい飲み物には、鼻やのどの粘膜を加湿する効果があります。しかも、気道の線毛運動が改善して、痰もはき出しやすくなるのです。
しかも、からだの全体が温まるので血行や血流が良くなったり、呼吸を楽に感じたりすることは、症状改善の一助となるでしょう。なお、特に咳がひどい時にはちみつを入れた温かい飲料がおすすめです。
また、咳は痰を出すときに咳き込むこともあるので、咳の対処法も紹介してもらいました。

ツボやストレッチ方法
鎖骨の外端下の窪んだ部分から指1本分下側(尾側)の位置に中府(ちゅうふ)と呼ばれるツボがあります。それを押すことで、咳症状が軽減する可能性があります。
1.押す位置の反対側の手を使う。
2.強弱の目安は痛くないぐらい。
3.ツボを押したまま5~10秒間、深呼吸をしながら実施。
入浴や加湿器
入浴や加湿器を使用すると、喉や鼻の粘膜を湿潤する効果が高くなり、咳症状を緩和する期待がもてます。また鼻呼吸を促進できるため、過敏な反応を示す気道の刺激を減らし、乾燥状態も改善に導くことができるのです。そういったことが、異物侵入の予防や、のどの症状の緩和につながると考えられます。
むせるような咳
咳がでる原因がわかれば、適切な対処法を行うことで、症状が緩和される可能性があります。例えば、むせるような咳が続くときには、水分を十分に取ることで、喉を潤して、同時に、喉に刺激をできる限り与えないように意識しましょう。咳を悪化させないためにも、喫煙や過度のアルコール摂取は控えましょう。
寝るときに咳を止める方法
寝るときに咳を止める方法の一つとして挙げられるのが、漢方薬の服用です。漢方の作用は、それぞれの症状や根本的な原因に応じ、体質を改善するというもの。特に「咳」の症状に対して処方されるのは、麦門冬湯(ばくもんどうとう)と呼ばれる漢方薬で、咳症状を抑制するだけではなく、体質改善する可能性が期待できるというものです。
アルミホイルを使う民間療法に科学的根拠はない
アルミホイルを指などに巻くと咳が止まるという逸話は、科学的な根拠が乏しいと考えられます。この手法で、医学的に咳が改善すると証明された研究結果はまずありません。
一般的に咳症状を呈する原因としては、風邪、アレルギー、喘息などがあり、適切な対処法は根本的な原因によって異なります。持続的な咳により、仕事や生活面で支障をきたしている場合は、早急に専門医療機関で診察を受けましょう。
痰が出せずに吐きそうになる
「痰が喉にあり、呼吸をするたびにゼロゼロという音がする……」「痰を上手に出せずに吐きそうになる」という人もいますよね。
特に高齢者や乳幼児は、痰を上手に出せない傾向がみられます。本来は咳(咳反射)をすることで痰を生理的に排出するのですが、のど周辺の筋力が弱かったり飲み込む力(嚥下機能)が低かったりするとスムーズに痰を出せません。
体勢や呼吸法など、少しでも痰を出しやすくする方法を試してくださいね。
喉の炎症や咳を一日も早く治すために
喉の炎症や咳症状を改善するためには、原因疾患の追求が近道。その疾患に対する治療を積極的に行うことが重要です。
【医師よりまとめ】症状を改善するためには、必要に応じて、去痰剤による対症療法をするケースもあります。それ以外に、水分を規則正しく摂取する、喫煙者の場合には禁煙することなども咳症状を緩和するうえで大切な方策となります。
また痰が絡んだ咳が長期的に続き、黄色や茶褐色、緑色など色調が普段は見慣れないような痰が連日連夜排出される場合は、お早めに呼吸器内科など専門医療機関を受診して、相談しましょう。
◇記事の構成・編集/salvia編集部
◇質問の回答:産業医 甲斐沼孟医師
【甲斐沼孟医師のプロフィール】
日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会指導医、日本医師会認定産業医、他多数。
大阪市立大学(現在の大阪公立大学)医学部医学科卒業。
主に、大阪地域の総合基幹病院にて臨床修練経験を積み、現在は大企業で産業医として保健衛生活動を積極的に実施している。